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決勝

三浦GPSチームとの決勝戦を迎えるにあたって、山本さんとの事前の作戦会議はなし。ただ舞台の袖口で「今まで通りでいきますけど、勝算は薄いです」というような事は話していた。普通に考えて三浦さんと自分ではかなり差があるし、GPSにしても悪手を指したところを今まで見たことがなかったから。

対局が始まって序盤の作戦は角換わりで行くことに。1局目は矢倉、2局目は横歩取りだったので決勝は角換わりで行こうと思っていた。この辺はやはり「魅せる」ことも頭に入れての毎回違った戦法選択だった。

また解説が森内名人、特別ゲストに谷川会長に来て頂いていて、角換わりやりたいなと思うのは自分としては必然だった。奨励会時代から両永世名人のタイトル戦の将棋で勉強してきた自分にとっては、やはり谷川先生と言えば角換わりで無敵を誇ったという思いがある。(実は2局目も角換わりに誘導していたのだけど結果は横歩取りだった)

軽快に銀をぶつけて先攻、テンポよく進んで下図、今後手が△5四銀と打ったところ。
20130904佐藤三浦42手
ここで解説の森内名人も驚いていた手がポナンザの示していた▲5一銀という攻め筋だった。進行の一例は以下△5二金▲7一角△8四飛(△7二飛には▲6二角成で優勢)▲6二角成△同金▲同銀成と攻める順。正直、自分では思いもよらぬこの手を見て、どうしたもかと考えた。面白そうでやったみたい手だが、自分はここで▲6一角と打つ気でいたからだ。点数は▲5一銀も▲6一角も同じくらい、マイナス100点前後だったように思う。結局は▲6一角と打つことにしたのは自分らしい攻めの組み立て方でいくべきだと思ったから。しかしこの▲5一銀は本当に見えない手だなと感心するよりなかった。

十数手進んで下図↓
20130904佐藤三浦57手
この中盤の難所の局面を迎えるにあたって、直前から三浦さんはほぼGPSを見ることなく、盤上に没頭しているような感じを受けた。自分としてもこの局面は読み筋で、山本さんにも「この局面なると思うんで調べさせてください」というようなことを言ってあった。自分の読み筋は△5六馬と飛車に当てて逃げてくる手で▲3五飛と逃げておいてどうか。先手からは次に▲3四桂、▲4三歩、▲8五飛などの攻めが残りやれる局面だと思っていた。ポナの読み筋は△5六馬が第一候補で△6八同馬が第二候補。さすがに切ってくることはないと思っていたから△5六馬の一点読みだった。
そこで三浦さんが指した手が△1三馬。

全く自分の読みになかった、ポナにもない手だった。コンピューター同士読み筋が合うともいうし、GPSが示した手ではなく三浦さんの考えた手だと直前の気配からピンときた。そしてここで自分は長考に入ったものの、良くなりそうな手はみつけられなかった。

そしてこの日初めて、すがるような気持ちでポナの画面を見た。自分のうっかりをポナが帳消しにしてくる手を見つけてくれないか、と。

ポナの出した答えは・・・暴落した評価点だった。その全てがマイナス300後半以上で、△1三馬指されるまでとは200点以上違ってた。ああ、ポナもうっかりしたのかと思って、これはチームとして負けたなと思った。

どう言えばいいか難しいけど、この三浦さんの指した△1三馬を見て、心が晴れていったんだ。やっぱ三浦さんすげぇ、強すぎ。。そう思ったし、このまま仮に評価点通り局面が進んで勝った負けたとしても、常にコンピューターは正しい局面の評価をしていて強かった、ってだけで終わるような気がしていたから。三浦さんの指した好手を、自分もポナも同時にうっかりしてるなんて、この手を指されるまではないものだと思ってた。

確実に負けが迫ってることに嬉しいに近い気持ちになるなんて、かなり色んな感情がごちゃごちゃになっていたんだと思う。同時にうっかりしたことで、チームとしての認識が高まるなんて皮肉だったけどね。

ここからは自分とポナ(山本さんも)の悪あがきが始まって、自分が思いついた手を検索→ダメの繰り返しだった。結局自分が指し手を選んだ基準は、人間らしく、遊び駒を残さないこと。成銀の活用から相手の金を剥がして、少しでも相手玉に迫れる形にしておく。全然評価点は縮まってなかったけど、それはもう諦めていたし、将棋として綺麗な手順を選ぶことも考えていた。

そうして持ち時間が切れる直前となり、30秒将棋へ。

万策尽きたかのように思えたが、まだ最後にやれることがあった。コンピューターと手を切ること。あえて劣勢だからできたと言うのもある。でも元々将棋とは自分のみで考えて指して、結果を背負うもの。当たり前に戻ったということだけだった。

このときは山本さんに「もう局面自体が悪い、ジタバタしてもしょうがない。こっからは自分で指しますから」と告げて、快く送り出してもらった。山本さんは開発者の中では群を抜いて将棋が強いというし、悪あがきで色んな手を検索してもらって全てがダメだったことからも、自分の言ったことの意味をわかってくれたようだった。ここ30数手一度もプラス評価の局面になってないんだから仕方ないと言えるけど。

そのあとに逆転した要因は・・・短時間のことで色々起こりすぎてて一言で言えないけど、仮に相手の三浦さんが一人で指していたら逆転はなかったように思う。30秒将棋ではGPSの操作の人が指し手を入力してから正しい評価点を出すまで時間が足りないし、10秒前と後で全く違う発想の手が一番上に来られても指す方がパニックになってしまうから。30秒将棋で協力し合うというのは相当無理というか、対局者の集中力が削がれる分マイナスに働く部分もあったように思う。
それと人間は状況に応じて保守的になったり捨て身になったりと、良くも悪くも自分をコントロールすることができる特性もあると感じた。コンピューター同士の対局に比べて圧倒的に人間同士の対局で逆転が多いのは、単に将棋の強い弱いだけじゃなく、そういったものが作用していると考えさせられた。

大会終了後に打ち上げに向かう途中、三浦さんに「△1三馬は三浦さんの手ですよね?」と真っ先に聞いてみた。
「そうだけど」って思った通りの答えを貰って、あーやっぱり凄い人だなと思ったのと、あの手がなかったらこんなに晴れ晴れとした気持ちにはなれなかったに違いないと思い、感謝の気持ちで一杯になった。


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No title

良くできたエッセイのような美しい話ですね。堪能しました。これからも応援しています

素敵な文章を、有難うございます
プロの心意気とプログラマーの皆さんの思いがあってあの1日が感動に包まれたことを、改めて実感しました

No title

こんなに面白い自戦記(観戦記含む)見たことない!!
すごく正直な気持ちが出ていて感動しました。
願わくば将棋世界等の専門誌で、
もっともっとサトシン先生の文章が読みたいです。

No title

素晴らしい自戦記でした。
もっと佐藤先生の自戦記(観戦記)を読んでみたい。
あの短時間の間にそんなドラマがあったなんて感動すると共にやはりプロは凄いと思わされました。
これからも応援し続けます。

すばらしい

良いものを読ませていただきました。
素晴らしい自戦記だと思います。恥ずかしながらちょっとうるっときてしまいました。

応援してます。頑張ってください!

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No title

お疲れ様でした。
ポナ&山本さんへの色々な感情と、谷川&森内両永世名人への
尊敬の念、そして三浦九段への敬意などが感じ取れる、面白い
自洗記でした。何より、佐藤先生が何かトンネルから抜けた感じが
見て取れてよかったです。

優勝の味 笑顔

佐藤先生は今回の優勝は2008年の三段リーグ優勝以来ですよね。
片上大輔先生も「慎一君はいい笑顔でした。かっこよかったよ。」って言ってましたが
やっぱり優勝した時の笑顔は素敵ですね。
http://blog.goo.ne.jp/shogi-daichan/e/1bb78609fa350bec628397e4e461fe41?fm=rss

反対に負けた人は相当悔しそう。
負けた直後の人に解説させるってどうなんだって思いましたね。
阿部光瑠先生 オコールでした。

もうひとつ印象に残ったのは山本一成さんの笑顔ですね。

コンピューター選手権

2009年 一次予選敗退
2010年 二次予選敗退
2011年 決勝 5位
2012年 決勝 4位
2013年 決勝 3位

山本さん負け続きで一度も勝ってないって嘆いてましたからね。
今回が初優勝みたいなので破顔一笑 相当嬉しそうでした。

No title

は~
このブログに書き込みしといてなんですけど、
実は私、三浦さんを応援していたんですよ。
電王戦のときに、素人が見ればあっさり負けたように見えて、
初めて知った人は、三浦さんを低く見ているんじゃないかと思って悔しくて。
それに加え、ソフト信仰の人はソフトの差で
GPS1台+三浦さんより、ツツカナ+船江さんを押す方が強かった。
だからぜひとも優勝して欲しかったんです。

・・・・・しかし、このブログをみて思いました。
三浦さんに勝ったのがサトシンさんで良かった。
だってサトシンさんじゃなかったら、
三浦さんの凄さ、棋士の素晴らしさを伝えてくれる記事が書けたでしょうか?
電王戦の雪辱を晴らしたサトシンさんと、
勝者の書いた記事で三浦さんの強さも分かる、一石二鳥で最高です。

技術と精神性

今回の記事は、前回の記事の合理性とは別の意味で、感動しました。
まさか決勝の対局の裏側でこんなドラマがあったなんて、本当に面白いです。

特に局面が悪化したのに、対局相手の三浦先生の力を素直に称賛し、その後、
考えられる最強の抵抗を続けていったのは、非常に素晴らしいことですね。

これを機に、プロの技術と高度な精神性が融合して、
棋士としての高みを盤上へと、どんどん表現してくださることを期待しています。

No title

タッグマッチを見てこの記事を読んで人間のプロ棋士の魅力を再認識しました。

お互いにとって、今回のタッグマッチは無駄じゃなかったと思います。

No title

とても面白い話を聞かせていただきありがとうございます。

30秒将棋の直前、佐藤先生が自分で指すという話に快くうなずいた山本さんに感動しました。

山本さんは将棋ソフトの製作者であると同時にアマの強豪将棋指しであり、他のソフト製作者とは全く違う「プロ棋士への憧憬」を持っている方だと感じることができました。

三浦先生の13馬にしても佐藤先生の56歩にしても、我々将棋好きが憧れてやまない最高の手で、山本さんもそれに憧れる将棋好きなんだと。

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なにこの自戦記!?

めっちゃ面白い!



コンピュータと手を取り合いながらも、しっかりと人間の素晴らしが伝わってきます!


こんなエキサイティングな自戦記初めて読みました!!




・・・あ、そうか。


だから故米長永世棋聖もサトシンを選んだのかもね。


この男なら、勝っても負けても、コンピューターとの対局を意味のあるそれに昇華できると。



そしてプロ棋士の将棋に付加価値をつけることの出来る男だと。



米長先生の慧眼に今さらながら脱帽を。


そしてその期待に十二分に応えた佐藤先生に惜しみない拍手を。



『おい、サトシン、やるじゃないか』

そんな声が聞こえて来るような気がします。


No title

遅くなりましたが、優勝おめでとうございます。

同時にうっかりしたことで、チームとしての意識が芽生えた、っていうのも面白いですね。これが読めただけでも良かったです。

阿部四段も電王戦後の記者会見で言っていた言葉ですが、
相手が誰であろうと、コンピュータが味方についていようと、
最後は自分の指し手を信じた人が勝つ、だけどそれが難しい、
将棋は将棋だな、と、思いました。
そして、改めて将棋って面白いんだなと。それが少しでもわかるようになりたいな、と思いました。

中継と自戦記を読んで、そんなことを感じました。

今後の活躍にますます期待しております。

No title

いろいろたくさん賞賛の言葉が浮かぶけど

一言ですますと

ますますサトシンが好きになったよ。

No title

一生忘れることのないような、素晴らしい体験をまたさせていただきました。
将棋の内容も高かったですが、棋士の戦い姿の勇ましさを改めて感じました。
正直、佐藤先生が勝たれて、また気持ちも晴れられたようで、すごく嬉しいです。

大変興味深い

電王戦を見て将棋を始めた私のようなド素人にも対局の緊張感、将棋の奥深さがよく伝わってきました。

中でも興味深いのは、将棋という言語を通してコンピューターと会話を楽しんでいるような、わずか数か月前に対戦された時とは全く違った印象を受けたのですが、
あらためて、今回のタッグ戦を通して、サトシン先生は、コンピュータと人間の
関わり方というか、共存関係についてどのように思われましたでしょうか。

これからもますますのご活躍期待してます。

No title

面白かったです!
棋戦も頑張ってください!

No title

このブログ、いつも、ご自身が体験した出来事を正直な感想を交えて普通に書いているだけかもしれませんが、サトシンさんは、読み手を惹きつける文章能力に長けている人だと思う。

「将棋界の逆境のエッセイスト」

将棋に限らず、どんな題材のものでも、サトシンさんのエッセイが出版されたら即買います。

No title

動画見てきました。
本当に面白かったし感動しました。
一気にファンになりました。

(1/2)

①なるほど…「△1三馬」でしたか。確かに感想戦でも出てこなかったけど、言われてみると「凄えなあ。さすがプロ」と思わされる一手でした。
 (2回目に馬引いた時のみうみうの名言「だってGPSが引けって言うもんだからさぁー」に、持ってかれてた感もあったけどw)

②ここまで読んで、タッグマッチ開始前にあった佐藤先生の心のモヤと、それが晴れた理由が伝わって来ました。
 「コンピュータの読み手を指し続けて勝っても、そこに棋士としての意味があるのか?」
 「棋士はコンピュータの添え物なのか?」
 「そもそも今回のイベントの意図って結局、棋士<コンピュータの図式を示すためのものではないのか?」
 佐藤先生も感じられた通り、『そんな事はありません。』
 佐藤先生は三浦先生の差し手を絶賛されていましたが、ご自身でも、名人や視聴者から絶賛された差し手を、何度も指されています。
 そして、あの対局が視聴者に感動を与えてくれたことも、また事実なのです。天才の部類に属する人間が、必死こいて足掻くからこそ、プロ将棋は面白い。

③形勢有利な局面になると、有利を維持するためにどうしても、より堅実に勝つための方向へ手が動いてしまうのは、心理的に仕方の無い部分ではありますね。
 終盤、GPSの差し手を信用し過ぎず三浦先生が一人で差していれば、或いは勝っていたかもしれない…という仮定には、私も賛同します。 三浦先生は、優勢を意識しすぎて受け手に回りすぎていたのかもしれません。
 ただ、そこに明らかな悪手は存在していなかった。だからこそ、あの対局が名局賞に選ばれても不思議は無い、と考えております。

※長くなったので続きます。

(2/2)

 今回のイベントを終えて真っ先に感じたことは、人間とコンピュータが協力して対局を行う「アドバンスド将棋」というジャンルの可能性について、です。故・米長会長も話されていた「共存共栄」ですね。
 「人間<コンピュータ」の図式が既に確立されてしまったチェスでも、コンピュータ単体では、人間とコンピュータのタッグには勝てないという話を聞きます。おそらく将棋でも、同じ事が言えるでしょう。それは佐藤先生ご自身の方が、より強く体感されていることと思われます。

 但し。
 おそらく今後、将棋連盟では携帯等のモバイル機器持込制限が行われる事でしょう。これは仕方ないです。何より盤面に向かい合う者同士で片手に携帯だと、絵的に美しくない。
 ただ、「コンピュータの使用も制限一切無し。好きにやってくれ」と言った大会が、ひとつくらいあっても楽しいかもしれませんね。今までの棋士の格付けが一新される可能性もありますし、棋譜としてのクオリティも、より高まって行くだろうと期待していますし。
 ※ドワンゴ辺りが企画して、そんなタイトル戦主催してくれんかなぁ…

No title

遅くなりましたが優勝おめでとうございます。
決勝戦は見ていて手に汗握りました。
素人目ですが、1三馬はなかなか出てこないですね、どれほど良い手だったかは私にはわかりませんが、名人や皆をうならせていたと思います。
私個人としては56歩の局面のことをもう少し聞きたいです。

これからも応援しています、がんばってください!

No title

「そうだけど」がみうみうっぽい言い方

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No title

一番喜んだのは・・・・・・やっぱ子供たちでしょ?

優勝おめでとうございます

電王戦以来の書き込みになります。
 優勝が素晴らしいのはもちろんですが、電王戦タッグマッチの自戦記シリーズも素晴らしいです。
 私は将棋はプロの対局の棋譜を見てもよく分からない初級者レベルの「将棋を見て楽しむ」将棋ファンです。その立場からすると、優れた棋譜解説・優れた観戦記・自戦記は、優れた棋譜と同じくらい意味があります。
 サトシンさんには、この卓越した文章力を生かして、是非とも将棋の本を書いていただくことを希望します。
 今後とも、ご活躍をお祈りいたします。

No title

ポナシンタッグの活躍、もう一回みたい!

No title

自分は観戦時、ソフトで確認しながらの
アドバンスド観戦を楽しんでいます。
評価値の数字が減った増えたで
素人でも他のスポーツを観戦しているのに
近い感覚で楽しめています。
今回のタッグ戦も評価値の動きに一喜一憂しながら
特に決勝戦終盤、数値が逆転していく様子を
手に汗握りながら見ました。
そしてその終盤の手がソフトではなく
プロ棋士の考えた手というのがとても嬉しく思います。
プロの感覚、経験等々
数字に表す事ができない深さがあるのだと再確認しました。
評価値の数字を見て楽しんでいる自分ですが
本当にそうなの?何か凄い手で数字をひっくり返してほしい
と期待してもいるのです。
本当に見ていて楽しい対局でした。
ありがとうございました。
プロフィール

月下のシン

Author:月下のシン
2008年10月1日付けで棋士となった佐藤慎一です。
気づいたら早いもので4年目に突入!
宜しくお願いします。

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